走塁専門職アンタッチャブルその13

前回の続き

観客の誰もが、何が起きたのかわからなかった。

いや、選手も、キャッチャーも、そして99さえも。

絶体絶命の状態から、気付いてみれば、99がホームに手を伸ばしていたのだから。

しばしの空白の時間の後、誰もが一斉に同じ方向を向いた。

バックスクリーンだ。

ここに、アウトかセーフの判定が出る。

判定:アウト

どよめき、怒号、歓声、叫び声。

あらゆる声が球場を包む。

実況「い、今のプレーはなんだったのでしょうか?」

解説「まったく…わかりません」

実況「リプレイ出ますでしょうか?」

実況「…絶体絶命と思われたのですが、ここで謎の動きをします」

解説「まるで空中を走っているようですねぇ」

実況「そして、キャッチャーの『突』と交差するのですが…当たっていますでしょうか?」

解説「微妙なところですねぇ。ちょっと判断できませんねぇ」

実況「判定では、タッチアウトということで、サヨナラのチャンスはなくなりました…」

この試合の結果を気にするものは誰もいない。

試合後、99が『突』を使ったと語り、謎の動きの正体がわかった。

キャッチャーも後に語った。

「走塁に『突』を使うなんて思いもよらなかった。これから、新たな走塁が生まれるだろう」

キャッチャーの予言どおり、各チーム『突』の走塁への応用が研究された。

平面的走塁から立体的走塁の時代へ。

走塁専門職アンタッチャブルがいよいよ活躍する時代へと突入する。

この時代を拓いた背番号99。

後に、空中を走った男として『空』の異名がついたという。

おわり







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