送りバントは確率的に有効な戦術なのか?という私にしては珍しくビッグテーマでお話したいと思います。
人生において何度このテーマを考えたことでしょう。通勤電車の中で…お昼ごはんを食べながら…ベッドに入って寝付けないとき…折々、考えるのですが『俺、バント好きやし、きっと良い戦術!』と科学的根拠のへったくれもない結論で満足していました。が、今回は科学的・数学的データをもとにして考えてみましょう。今回はそんな感じで。
参考
中尾泰士
数学的データから送りバントを考察しよう
本論文において著者の中尾先生はこう考察されています。
「犠打」という戦術は大して有効ではないことが分かった。特に、ある程度の長打力を持ったチームの場合、犠打は得点の期待値を減少させる。
その理由を一つずつみていきましょう。0アウト1塁と1アウト2塁はどちらが多く得点がとれるのか?著者はAdler氏の論文のデータを引用しているのでそれを見てみましょう。
0アウト1塁…0.93点
1アウト2塁…0.71点
この0.91点とか0.71点というのが上記に出てきた得点の期待値です。つまり0アウト1塁だと、まぁだいたい1点は取れるんだろうなぁ、といった感じでしょうか。少し話がそれますが、データ上、0アウト1塁、1アウト3塁、1アウト1・2塁の3パターンは得点期待値がだいたい1点です。私の中では、ちょっと信じられないデータなのですがどれか選べるとしたら、まぁ間違いなく1アウト3塁を選ぶと思います。
プレーをしている人ならばこう思うかもしれません。そんなんバントで1アウト2塁とか単純なもんじゃないんちゃうん?3塁に行くかもしらんし、いろいろあるんちゃうん?と。そんな人のためにAdler氏はもう一つのデータを用意しています。
2004年メジャーリーグにおいて0アウト1塁のとき、年間で1080の犠打が試みられました。その得点期待値をデータにするとこうなります。
0アウト1塁で犠打を選択…0.83点
0アウト1塁で犠打を選択しない…0.94点
データを見る限り、これじゃあバントする意味ないやん、と思われるかもしれません。そこで、次のデータを見てみましょう。
ちょうど1点を取れる確率
0アウト1塁…16.6%
1アウト2塁…22.4%
2点でも3点でもありません。ちょうど、ジャストで1点を取る確率です。1点だけ取る確率になると1アウト2塁の方が高くなるのですね。ここまできて、著者もAdler氏も一つの結論に至るわけです。
送りバントは有効とはいえない
と。ただし、
・明らかに平均以下の能力を持った打者が打席に立つ場合
・1点を取る確率は増加するので、ゲームの終盤で1点が必要な場合
・チームの各打者に長打力がなく、ヒットを打ててもシングルヒットにとどまるような場合
には、送りバントは有効な戦術になりうる、としています。
このように送りバントが有効な場面が明示されているにも関わらず、送りバントは正しいんか?正しくないんか?という私のようなヒネクレ者が後をたたないのはなぜなのでしょう。著者は一つの仮説を出しています。
日本の野球選手は子どもの頃から野球チームに属していることが多い。子どもの頃は打撃の技術やパワーが未発達で、なかなか長打が出ないと推測される。いわゆる投手有利の状況で、チームの指導者は少ないヒットを戦術選択で補ってなんとか得点を得ようとする。そこで、犠打という戦術が採用されることになる。
…(中略)…このような環境で育ってきた野球選手は、プロの選手になっても、また、監督になっても、自らの経験をもとに戦術選択を行うようになるだろう。以上が、日本野球において犠打が重用される理由についての筆者の仮説である。
さて、ここまで論を尽くしてもらっても、私の中ではどうしてもモヤモヤが残ってしまうのです。そして今、ちょっとモヤモヤが解決しました。その答えは…
送りバントを選択するときもしないときもある。その根拠は得点期待値で、その得点期待値の根拠は科学的データより勘をもとにしたものである。そしてこのカンピューターはかなりの精度をほこる。
かなり上の方で紹介していますが、データ上0アウト1塁、1アウト3塁、1アウト1・2塁の3パターンは得点期待値がだいたい1点というお話をしました。が、正確にデータを紹介すると
0アウト1塁…0.93点
1アウト3塁…0.98点
1アウト1・2塁…0.97点
となります。どの人でも直感的にだいたい1アウト3塁か1アウト1・2塁の方が0アウト1塁よりもチャンスと選択できるのではないでしょうか。つまりカンでも得点期待値0.05点差の有利不利は判断できるということです。
以下、数学的センス皆無のおじさんの独り言として受け取ってほしいのですが、そもそも野球的データは信用ならんということです。データにするということは条件や制限を決めることでもあります。しかし、野球やソフトボールというのはいわば生き物で、同じようなことはあっても、同じことはないのですね。同じような場面で、あるときは送りバントを選び、あるときはヒッティングを選ぶ、なぜなのか?これこそカンであり、その勘の根拠はこれまでの野球・ソフトボール人生で蓄積されてきた活きたデータによるものなのですね。そしてその勘は意外と間違わないのですね。
まとめ
送りバントはデータ的には有効な戦術とはいえない、ただ、貧打の人には有効かもしれない。そもそも、自分がここは送りバントや!と思ったらするのがよい。そしてそれはデータ的に見てもおおむね正しい。