走塁専門職アンタッチャブルその10

前回の続き

キャッチャー「かかったなっ!」

『薙(ナギ)』は左右往復の素早さこそ命。

腰を反転、隙を与えず二発目を放った。

高さは胸のあたり。

99「くおぉぉお!!!」

珍しく放つ、99の雄叫び。

腹の深部、丹田に力を込める。

中空からの体の捻り。

体幹の強さと天性の運動神経に任せた力技。

背中に感じる風圧は、近距離を通り過ぎるトラックのようだった。

「遠距離」「近距離」の技を出し尽くしたのに仕留められなかった。

キャッチャーの心によぎる感情は…

ありえない動きを見せられた驚きか。

それとも、タッチをことごとく避けられた失望か。

否、どれでもなかった。99はタッチを避けたものの、着地も及ばない体勢だ。

スピードも完全に死んでいる。

いわば、手負いの獲物。

タッチしてアウトをとる。

その結果こそ全て。

そこに感情が入り込む余地はない。

マシーンのような冷徹さ。

これこそ、彼の本質であった。

キャッチャー「これで…おわりだ」

彼には、99に対して尊敬の念すら芽生えつつあった。

三発の『突』と『薙』の往復を、かわしきった男。

過去、これほどのランナーはいただろうか。

無抵抗の状態の99に最後の『突』を放つ。

キャッチャー「……すまん、ね。」

走塁専門職アンタッチャブルその11







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする