前回の続き
キャッチャー「かかったなっ!」
『薙(ナギ)』は左右往復の素早さこそ命。
腰を反転、隙を与えず二発目を放った。
高さは胸のあたり。
99「くおぉぉお!!!」
珍しく放つ、99の雄叫び。
腹の深部、丹田に力を込める。
中空からの体の捻り。
体幹の強さと天性の運動神経に任せた力技。
背中に感じる風圧は、近距離を通り過ぎるトラックのようだった。
「遠距離」「近距離」の技を出し尽くしたのに仕留められなかった。
キャッチャーの心によぎる感情は…
ありえない動きを見せられた驚きか。
それとも、タッチをことごとく避けられた失望か。
否、どれでもなかった。99はタッチを避けたものの、着地も及ばない体勢だ。
スピードも完全に死んでいる。
いわば、手負いの獲物。
タッチしてアウトをとる。
その結果こそ全て。
そこに感情が入り込む余地はない。
マシーンのような冷徹さ。
これこそ、彼の本質であった。
キャッチャー「これで…おわりだ」
彼には、99に対して尊敬の念すら芽生えつつあった。
三発の『突』と『薙』の往復を、かわしきった男。
過去、これほどのランナーはいただろうか。
無抵抗の状態の99に最後の『突』を放つ。
キャッチャー「……すまん、ね。」