ついに別れの日がやってまいりました。形あるもの、いつかは滅びます。そして今日、また僕はある別れをすることになりました…
先日、靴の調子が悪いことを書きましたが、ついに彼ともお別れの日がきたようです。現役時代からずっと、長いことお世話になってきました。僕の走りは彼と共にあったのです。決して彼はエリート(値段が高い)ではありませんでした。でも、精一杯頑張ってくれました。靴裏のゴムがベロベロにはがれても、つま先が無いような状態になっても、いわば靴の原型をとどめていなくても彼は立派に役目を果してくれました。
「…ニコさん……あっしはもう、動けませんや……」
「何、弱気になってんだよ…これからじゃない…か…」
「いや、最近はニコさんの足を引っ張ってばかりでさぁ…ここらへんで、お暇させていただけませんかねぇ……」
「…ぐすっ。わかったよ。もう何も言わない。でも、君の後は誰に僕の足を任せたらいいんだい?君よりいい靴なんて……」
「一人いますぜ…若けぇが働きもんでさぁ。あっしの後任にしてくださいよ」
「わかったよ」
「こいつでさぁ。ほれ、自己紹介しな」
生意気な野郎だが、彼が言うんだから間違いないだろう。これからよろしく頼む。
「新入り、名前は?」
「名器、ナイキエアブラスターⅡMCSでちゅ!」
「自分で名器言うな!!まったく…彼のようなイブシ銀キャラがよかったぜ…ぶつぶつ」
そういや、彼の名前はなんていうんだろう?もう靴の形をしてないからメーカーとかわかんないや…
「君、長い間ありがとうね。名前、聞いてなかったね。」
「へへっ…あっしにゃ、名前なんてありゃしませんよ。…でも、もしよければニコの靴って呼んでくれませんかね?」
「ニコの靴…ありがとう。ホントありがとう、ニコの靴!!」
「どうも…さて、あっしはもう行きますぜ…なんだか疲れちまいましたよ……」
靴が行く、特に運動靴が行くということは、もう二度と会えない場所だということを僕は知っていた。だが、彼を止めることはもうしない。彼は本当によくやってくれた。ニコの靴…彼こそ名器の名にふさわしい。
「じゃ、元気でね…」
もう二度と会えないのに…こんな事しか言えなかった僕。残ったのは若い靴が一つ。ニコの靴が遺してくれた靴。彼のためにも、この若い靴を魂のこもった名器にしようと心に誓った僕なのでした。
ニコの靴、おつかれさまでした♪